27章 不確かたる因果
「畜生、全っ然清海の足取りがつかめねぇ」
「清海がきれて中年を蹴った。その後からぱったり途絶えちゃってるのよね」
靖がうがー、と騒いでる横で美紀が言った。
「聞き込みもしたけど成果はなかったしね」
「今はただキュラが帰って来るのを待つだけ、なのよね」
レリの言葉に内心ため息をついてあたしはそう結論づけた。
この国は迷路みたいに入り組んでるから、知らないあたし達は来ないほうがいい。そう言ってキュラは1人でどこかに行った。
確かにあの地図を見た時のことを思いだすと……でも、だからってこうしてただ待つっていうのはね。
「注文の品のオレンジジュース2つとパフェ2つ。お待ちどう」
あ、来た来た。あたしと美紀がオレンジジュースで靖とレリがパフェ。
にしても店員、柄が良くないわね。こんなんで接客してて注意されないもんなのかしら。
『ザァァァ』
「あ。大変、雨だわ」
美紀の言葉であたしは窓の外に目を向けた。どしゃぶりとまではいかないけど、濡れるのは確実でしょうね。
「キュラ、傘とか持ってないけど大丈夫かな?」
レリが不安そうに言ったことに靖がどうでもいい事を言った。
「さあな。この世界にも傘ってあるのか?」
「似たようなものがあるんじゃない?」
それで会話を打ち切った。靖とレリはフルーツパフェに手をつける。
頼んだのはいいけど、あたしはすぐには飲む気がしなかったから窓の外を眺めることにした。
誰か知ってる人間が通るかも知れない。……できればキュラと清海以外は見つけたくないけど。
ずっと窓の外を見てみたけど、雨の中歩いてる人はすぐには見つからない。カッパくらいはあるかと思ったんだけど。
『カラカラコロンロン』
喫茶の店の戸が開いた。開けた人物があたし達のいるボックス席に近づいて来る。
「ごめんね、遅くなって。突然雨が降り出したから、濡れちゃって」
やっとキュラが戻ってきた。でもそんなに言うほどには濡れていないみたいね。
「それで手がかりはあったのか?」
「特にはなかったよ。カースさんの消息が途絶えてるってこと以外は」
カースって、光奈の言ってたこの国の要人の?
「清海がもしかしたらカースさんを探してるかも知れないの?」
そうだったら一石二鳥でいいんだけど…そんな良い話があるわけないでしょ。
「それはわからないけど。でも、カースさんのほうが探しやすいんだと思うんだ。
有名だから調べやすいと思って調べてみたらカースさんの消息が数日前に途絶えてた。
だから多分清海ちゃんもカースさんと会ってないだろうから探してるかもしれない」
「そうかもしれないね。清海が心配だけど」
でも、考えてることはあたしもレリも同じ。
「ま。あいつの事だから、何かあっても大丈夫だろ」
「そうね。清海はやる時はやるわ」
靖と美紀が頷く。全然清海が大丈夫って根拠はないけど、きっとあの子は大丈夫。
「それじゃ、カースさん優先ね」
キレると強いし、のんびりとしてる性格が地だけど清海は簡単にめげたりしない。
「うん。恨みを持ってる人を探せば良いんだよね」
美紀の確認にレリが頷いてあたし達のとる行動は決まった。
恨み…清海を探すついでにカースって人は調べてみると、光奈の言ってたような人の鑑だったことはわかってる。
でも、私利私欲に目が眩んでるの連中にとっては邪魔でしょうがないって事よね。
「カースさんはチェイスって男の屋敷に監禁されてるらしいよ」
きいたこと無いわね。信憑性はあるのかしら…まあ、意外と民の噂話ってあたるものだったりするけど。
「誰だよ、そいつ。政治家か?」
「この国の家臣だよ。それに野心家で傲慢な男。カースさんを狙う理由は地位と権力から来るものと、意見の食い違いかな」
よくある理由で平々凡々な考えね。あきれた。
「バッカじゃないの。そんなことくらいでさー。それでよく家臣になれたよね」
同感だわ、レリ。この国のレベルが低くない限り無理でしょ。
「そうよね。頭が悪くちゃエリート職につけないわよね」
美紀がそう繋げた。これは世界共通なんじゃない? 国全体に関わることだし。
「僕もそう思って後盾がいるんじゃないかと思って調べてみたんだ」
あら。キュラ、とぼけた顔して鋭いわね。
「誰かいたのか?」
「うん。この国の裏を取り仕切るルネス=ディオルって人が後盾してるんだ。この人は狡猾で力もある。それに」
「ちょっと待って。国の裏って何なの?」
あたしが訊ねるとキュラは少し苦笑を浮かべて言った。
「説明するのは難しいかな。国っていうのには必ず表と裏の顔があるんだ。表は主に統治とか国交とかがあるんだ」
表っていうのは報道OKみたいなことをやってるわけね。キュラは一度短く唸ると、また語り始めた。
ここからさきは、多分あたしの予想があたってるでしょう。
「だから、国の表っていうのは他国に知られても問題ないこと。国の裏っていうのは知られてはまずいこと関連、かな」
つまり国の裏は隠されている秘密ってこと。戦争の準備をしてるとか暗殺の予定とか?
「多分カースさんの件はルネスって人物が黒幕だと思う」
「なんでだよ。因縁でもあったのか?」
いままでパフェを食べることに余念のなかった靖が食べるのを中止して聞いた。
「そういうわけじゃないんだけどね……とりあえずここから移動しない?」
キュラは店の中を見まわした。
店の客は全然あたし達を気にしてないけど、キュラは店の人達からの視線を感じていた。
「結構鋭いのね、キュラって」
「そうかなあ? だったらあの時、湖に引き込まれるようなヘマしなかったと思うけど」
「話が脱線してるわよ、レリ。ここを出るなら早くでましょ。今なら雨も止んでることだし」
美紀に言われて気づいたけど、外では雨が止んでいた。あれは通り雨だったみたいね。
「あたしが会計を済ませておくわ。靖とレリは早くそれ食べてよ」
「わかった」
「んっ! んんん……けほっ」
レリは急ぎすぎて喉に詰まらせたみたいね。
「飲み物二つとハルフェシャトー二つ。計十リットン八シャウジスになります」
お金を払って店を出ると雨上がりだからか人はそんなにいなかった。
あたし達がこの喫茶店に入った時はまだたくさんいたものだけど。
傘がないと天候ひとつによって人ごみも変わるのね。さすが、魔法全盛の世界。まるで中世だわ。
「靖とレリ、すごいスピードで食べてたからもうすぐ出てくるわよ」
「また喉に詰まらせちゃうよ」
キュラは心配そうに窓ごしのレリを見つめて言った。
それから少しして美紀とキュラが店から出た。二人ともその間なんともなかったことにキュラはほっと息をついた。
「さっさとここから去りたいところね」
ここにはあまり長くいたくない。背中がぞくりとするような、気配がどこかから漂ってる。
今はまだ大丈夫。でも夜になればこの気配は濃くなる。
やっぱりいくら感じても慣れるものじゃないわ。 悪霊とかの類のものは。
それもいままで感じたことないほどの強い怨念が発せられてる。
滅多にあるもんじゃないわよ、こんなに強い恨みは。一個体では到底ここまでは出せない。
「ところで、どこで話の続きをするんだ?」
「それより早く今日の宿を決めようよ。昨日はまともな所じゃなかったんだから!」
「そうね、昨日はベットが壊れかけてたものね…」
レリと美紀の言葉に全員頷く。あれはサギね。壊れかけたベットなら値段をさげてくれても良いじゃない。
「ね、キュラ。だから話の続きより先に今日の宿!」
レリの左手がキュラの肩にゆっくりと伸びる。キュラは気づいた様子はない。
「そうしようぜ。宿は早めにとっておいたほうが良いだろ?」
靖の右手がすっとキュラの肩に伸びる。今だにキュラは二人の魔手に気づかない。
「でも、宿だと盗み聞きされるかもしれないんだ」
かなり慎重ね。そんなに重要なことなのかしら?これはあくまで憶測に過ぎない。
ま、そんなことよりも今日の宿を決めるほうが先ね。人の良いような所じゃないと。
もみ手をするうさんくさい宿屋の主は絶対駄目ね。
即答で問題はないって言うようなのや、始終笑顔浮かべてるのも。
「やーだー! だったら宿をとった後どこかに行ってすれば良いじゃない!」
ぱっとレリの左手と靖の右手がキュラの両肩をつかんだ。
「そうだぜ。お前、今日も昨日みたいなとこに泊まる気か?」
レリと靖が駄々をこねるのでようやくキュラが折れた。
「わかったよ。宿を先にとるから。だから、その手を離して」
多分レリは離さないと思うわよ。行動に移すまではずっと。
「絶対に絶対だからね!」
そう言いつつもやっぱり手はがっちりと掴んだままキュラを離さない。二人共、ニッコリと笑みを浮かべて。
掴まった当人からすれば凶悪な笑みね、あれは。
この二人がつるむと、逃げれないのよね。無言の責めと束縛で。
ただ、じっと相手が折れるのを待つ。何故か二人ともそのことには長けてるのよ。
「わかったってば、だから離してよ。僕はちゃんと歩けるから」
はぁ、とキュラのついた大きなため息をよそに靖とレリはキュラを引きずり始めた。
良心が強過ぎる程このコンビに逆らうのは難しいのよね。まあ、あたしがなんとかできることじゃないし。
二人が離してくれるまで地道に耐えるしかないわね。この格闘マニアコンビ、粘り強いから。
奴を倒したあとは呆気ないもので、障害もなく最深部までたどり着いた。
「……」
面倒だ。こんなに牢獄をつくってどうする気だったというのか。
「まだ、くたばってないよな」
奥義を修得してもいないうちに指導者が死んだら困る。剣技が完成しない。
牢獄を覗くとまだ使われた形跡はない。
それにしては以外と古い。ここ数十年のうちに作られたものではなさそうだ。
だがどこも錆びてるわけでもない。素手で壊せるものじゃないのは明かだ。
おそらく失われた遺跡の残骸だろう。その上にあの屋敷を作り上げられ存在を隠されていた。
まあ、こんなものわかっても面白くもないことだが。それでも探索の役には立つ。
「じいさん! いるなら返事しろ!」
反応はない。ひとつひとつ調べるしかないか。面倒くさいことこの上ないが、仕方ない。
俺は大きくため息をついた。手間のかかる老人だ。
「何も出てこないね」
コウモリ一匹でてこない。あ、でも地底にすみそうなのってモグラくらいだよね。
『そっちのほうが良いだろ。いちいち雑魚の相手なんてしてられっか』
ガーディアの声が響いていつもより大きく聞こえる。耳を抑えられずにはいられない。
うー、ビンビンする。私は耳を押さえながらガーディアと会話していた。これなんてコミュニケーション?
「うるさい狼ね。言っていること事態は正しいけど」
でも、何もでてこないと本当に進んで良かったのか疑いたくなるんだよね。
「そうだけど、何も出て来ないとかえって心配になるんだよ」
でも明かりはちゃんと灯ってる。使わないところに灯りなんてつけないよね。
私は小石につまづかないように時々足下を見ながら進んでいく。
ガーディアに乗ってたら、いつ頭を打つか心配なんだよねー。
『そーか? あたしゃ別に……んげっ」』
「どうかしたの、ガーディア」
ガーディアが鼻をひくつかせてる。敵かな?
「清海ちゃんは人を探してるって言ってたわよね?」
うん、カースさんを探してるんだけど。何かいるの、ミレーネさん。?
『もう少し先に人間が二人いるみたいだな。鉄の臭いがする。武器にしちゃあ妙だが』
「牢獄があるのよ。きっと、その中におじいさんがいるわ。その人が探し人でしょう?」
え。どうしてミレーネさんはそんなことわかるの?
『あのガキもいやがるな」』
ガキ? ガキって……あの黒コートの人?
そういえばあの人もカースさん探してたんだっけ。なんでかは知らないけど。
「うわー」
道の角をまがると、急にたくさんの牢屋が目に映った。 初めてこんな牢屋見たな。しかもかなり間隔が狭い。
警察にはお世話になりたくないなー、と私はそう思った。ここよりはずっとマシそうだけど。
あんまり自由に動けないだろうからやっぱり警察にはお世話になりたくない。
いろいろお母さんの昔のこととかあるし。親のことを言及されると何気に家庭崩壊の危機が訪れちゃう。
まあ、でも今は遠くの家庭よりも目先のことだよね。うん、意識を切り替えて。
「あの人がカースさん?」
何個か牢屋の中を覗いてると少し先の牢屋に人がいた。
『あたしの知ったことか!』
もー、叫ばないでよ。ただでさえうるさいんだから。 近づくとおじいさんから話しかけてきた。
「れ……だ?」
そう言われると少し困る。えーと、どうして来たんだっけ? あ、ああうん。思い出した。
「私は清海って言います。光奈に頼まれて手紙を受け取りに来たんですけど。カースさんですか?」
あたりが沈黙に包まれた。ええと、あんまり反応ないと困るんだけど。
「あ、あ。だ、がここ……に、は。ない」
ゆっくりと、搾り出すような声でそう言葉を返された。途切れ途切れで最後のとこわからなかったけど。
もしかして手紙を今は持ってないの? そう言おうとしたのかな。
「もしかして、ないんですか?」
カースさんはゆっくりと首を縦に振った。
「そんなあ……どうしよう。困るよ」
せっかくここまで来たのに。いや、カースさんが見つかったし、それはそれで良いんだけど。
「何がだ? 何故この場にお前がいる」
「ひゃぁ!?」
振りかえるとあの黒コートの人が背後にいた。 び、びっくりしたぁ。心臓がバクバクしてるよ。
「レイか」
え……え。さっき一言だったとはいえ……私は目を見開いた。さっきは、うん。確かに声が枯れてた人が。
「ああ。探したぞ、じいさん。あんた何をやってるんだ」
「うむ、交わした約束があっての。それを果たしたところじゃ。メーディラはどうしとる?」
「ピンシャンとしている。じいさんがいなくなったと気づいても呑気なものだ」
「そうか。ならば……ほれ、わしを出しておくれ。弟子よ」
「うえぇーーっ??」
さっきまで喋るのもキツそうだったのに普通に喋っていられるのはどうしてですか!
「何を今にも死にそうなフリしていたんだ」
え、黒コートの人。さっきのはおじいさんの演技だったの?
嘘ぉ! 拷問受けてたって。だから、衰弱しきってて声も出ないものだと……全部、私の早合点ですか?
「ははは……いやあ、すまんのぉ」
さっきまでとは打って違ってカースさんは笑った。
「はは、じゃないよ。もーこれからどうしようかと思ったのに私」
何で騙すの? がっくりと檻を掴んで私はしょぼんとした。
「どけ。身のためだ」
え、と顔を上げると黒コートの人が剣を抜いていた。
うわわっ!? あの人やる気だよ絶対!
私が慌てて後ろに下がるとすぐに剣は檻を切った。見事なくらいにスッパリと。
「し、信じられない……こんなのって」
目を瞬きしても目の前には檻だったはずの鉄くずとカースさんがいて。
そしてチラッと横を見ればこれをやってのけた張本人がいる。
「相変わらずじゃの。じゃが、まだまだ」
『ピシッ』
何だろう、壁に亀裂が入ったような音がしたけど。もしかして?
「また使い物にならなくなったな」
と言ってため息と共に剣を捨てた。投げ捨てられた剣は地についた音と共にまっぷたつになった。
一体どういう身体の構造してるのこの人。馬鹿力なんてものじゃないよ、最早怪力だよ。
「武器は大切にの、未熟者よ。おお、そうじゃ。そこのー、確か清海だったかの?」
いきなり名前を呼ばれたから、私はちょっと戸惑った。やっぱり今までのは演技だったんだ。
「あ、はい」
何だろう? 何か言われるのかな、何を言われるのかな。
私は呼ばれた時、少しドキリとしていた。
「何かフェシミナ殿から預ってはおらんのか? 細工のある珍しい眼鏡だと思うのだが」
細工のある珍しい眼鏡? うーん、そんなの持ってたかな。
『ヒョイッ』
え? 何……あ、サングラスを黒コートの人が私から取り外したんだ。
かけっぱなしにしてたんだっけ。どーりで見渡す限りの景色が暗いと思った。
「これじゃないのか」
サングラスが? あ、でもそういえば変なもの視えたりしたっけ。
「どれどれ……お、おお」
カースさんがサングラスを掛ける。カースさんにサングラスは不思議とよく似合った。
「ああ、これだ。すごいのぉ、失明寸前だったのが嘘のようじゃよ」
失明しそうだったの? あ、だから最初敵かも知れないと思ってカマをかけたの?
「その足で歩けるか?」
「さすがにそれは無理じゃな。暫く歩いておらんし」
あっさりとカースさんは言う。でも、拷問受けてたんだよね?
それなのに喋る気力あるなんてすごいなあ。
「貸し一つだな」
そういって黒コートの人は軽々とカースさんを背負った。
「師匠に貸しをつける弟子なぞお前くらいなものじゃ」
あ、そういえばやけにガーディアが静かだったなー。黒コートの人が目前に現れたら騒ぎそうだと思ったのに。
『っだぁー! 解きやがれこのクソアマッ!』
え。何なの、と降り返るとガーディアが地面に押し付けられていた。
正確な場面描写をするなら、ガーディアが勝手に地面に自分の身体をひっつけてるだけなんだけど。
さっきの台詞とミレーネさんの片手が変に曲がってるから、押し付けられてると思った。
「な、何やってんのミレーネさん」
もしかして生前はエスパー? ガ−ディアにこんなこと出来るなんて。
「うるさいからよ。私ね、長いこと幽霊をやってるものだから多少は気圧が操れるの」
「へ、へえ……そうなんだ」
もしかして私、とんでもなく霊格の高い人を憑依させてるのかな?
鈴実が幽霊の中には気の流れを変えれるのもいるって話は聞いていたけど。
それは結構長い時間をかけないと霊体でも身につけることは出来ないそうな。
「……姉さん?」
うひゃあぁっ!? ま、まただ。またこの人にいつの間にか背後とられてたよ!
駄目だよ、油断しすぎだよ。危うく口を塞がれて窒息しかけるかもしれなかったよ。
あー、私ってば……あれ? というかさっき。この人、ミレーネさんを姉さんって呼ばなかった?
「久しぶり。大きく、なったわね」
ミレーネさんは何とも言えないような表情で言った。
つまり……それは姉って認めたってことなの?
「ミレーネさん、どういうことなの?」
信じれない。だって、この人とミレーネさん似てないもん。
髪の色だって、黒コートの人は青系だけど、ミレーネさんはセピアだもん。
顔つきだって冷酷無比で私を容赦無く投げ飛ばすし!
ミレーネさんはそんな感じじゃない。雰囲気も似た所ないように見えるよ。
「それはそうね。私とこの子は血が繋がってるわけじゃないけど…」
苦笑しながらミレーネさんはそう言った。じゃあ義兄弟なの?
「こいつには関係ないだろう、姉さん」
あ、むっとしてる。初めてそんな顔みた。
なんだかおかしくて、私は声に出して笑ってしまった。
だって、すっごく大人びたその顔立ちに子供らしい表情するのはミスマッチなんだもん。
「笑うな」
あ。また今までの顔に戻った、
でも、あの顔を見たからずっと冷酷そうな感じがした表情もなんだか人間っぽい気がする。
「いや、ごめんね。でも……その表情がレイの普通の顔なんだなー、って」
今まで私、この人には感情がないのかと思ってた。
何考えてるのかわからなかったし、冷たそうだと思ってたけど。
家族のことを聞かれたらむっとする。年頃の男子そのものの反応するんだな、って。
そう思ったら、普通に名前で呼んでた。呼んだあとに違和感なく言ったことに私は気づいた。
失礼だったかな? そう思って、私は顔色を窺ったんだけど。
「は?」
訝しむ声を出したのは私が何を言ったのか理解できないからだっていうことは表情から読みとれた。
名前を呼ばれたことについては気にもかけてないみたい。よーし、じゃあこのまま名前で呼んじゃえ。
「レイのこと、少しはわかったような気がするよ、私」
「あら。今まで同世代の子には誰もわからなかったのに。少し寂しいわね」
言葉の割にはミレーネさんは嬉しそうだった。
でも、ちょっと待ってよさっき同世代って言わなかった? それがひっかかる。
レイって私より年上でしょ? だいたい、十五から十七歳くらいの背丈があるし。
もしかしたら、パクティよりも大きいかもしれない。
「この子、成長が早いから。これでも十四よ」
悪かったな、とレイは呟いてぐるりと半回転して背をむけた。
「……レイが!? 年上って言われても全然疑わなかったよ!」
鈴実だって見ただけならこの人幾つだと思うって言ったら高校生って言うよレイのこと!
「まぁ、他人から見たらとてもまだ子供とは思えないでしょうけどね」
『ブツッ』
突然、糸の切れたような音がした。
『っだあ! あー、、このあたしともあろう者が……手こずったぜ。清海も冷てぇし』
驚いたぁ。またガーディア? やけに大人しいからすっかり忘れてた。
「あ、ごめんごめん。すっかり忘れてた」
そういえば、ミレーネさんが大人しくさせてたんだっけ。
「忘れんなあ!」
「あはは。まあ良いでしょ」
よくねぇ、とガーディアが叫んだ。なーんか話がずれてる気もする。
「おい、いつまで続ける気だ。お前たちもここから出るんだろう」
レイはミレーネさんに手を差し出しながら私に声をかけた。その向こうには穴が開いていた。
あれ? いつの間に出来たんだろう。レイが開通させたのかなあ。
んー、まあそれはさておき。敵がまだいるかもしれないんだし早くこの山から降りなきゃ。
「うん」
とりあえずは、カースさん見つけられたし。此処に来た目的は達成したことになるよね。
手紙なんてカースさんに又書いてもらえば済むだろうし。
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